島根県健康福祉部障がい福祉課
自立支援医療グループリーダー 京谷 大輔

1.はじめに

島根県の自死者数は、平成8年に200人を超え、その後も高い水準で推移していました。このため、島根県では平成19年度に、学識経験者は医療関係者など多くの関係機関からなる「島根県自殺総合対策連絡協議会」を設置するとともに、「島根県自殺対策総合計画」を策定し、関係機関の連携により総合的に対策を推進してきました。

その結果、自死者数は、平成22年に15年ぶりに200人を下回るなど、減少傾向にありますが、依然として交通事故死亡者の約6倍です。また、人口10万人当たりの自殺者数を表す自殺死亡率は依然として全国上位に位置しています。さらに、昨年8月には自殺対策基本法に基づく自殺総合対策大綱が改定され、地域レベルの実践的な取組を中心とする対策への転換が謳われるなど、自死対策計画に関する新たな方向性が示されました。

このような状況を踏まえて、昨年10月から「島根県自殺対策連絡協議会」で計画の見直しについて議論していただき、この議論を踏まえて、新たな指針として平成25年3月に「島根県自死対策総合計画」をまとめました。

本稿では、平成25年度からの島根県の新しい計画の概要と自死対策計画の取り組みについて紹介します。

   

2.「自殺」から「自死」へ(「自死」という言葉の使用について)

「自殺」という言葉は広く社会に定着した言葉ですが、遺族の方から、「殺」という文字が使用されているため大変辛い言葉であり、偏見にも繋がるので、できるだけ使用せず、遺族の心情に寄り添った言葉である「自死」を用いて欲しいという要望をいただいていました。その一方で、「自死は十分に認知された言葉ではない」など、県が「自死」という言葉を使用することに否定的な意見もいただいていました。

このため、計画の見直し検討に併せて、計画や県行政一般に用いる「自殺」という言葉使いについても検討を行うこととし、「島根県自殺総合対策連絡協議会(平成25年4月1日付けで「島根県自死対策総合対策連絡協議会に名称変更)で議論して、次のとおりとりまとめていただきました。

(1)島根県自殺総合対策連絡協議会のとりまとめ

① 自殺対策基本法第18条においては、「国及び地方公共団体は、自殺又は自殺未遂が自殺者又は自殺未遂者の親族等に及ぼす深刻な心理的影響が緩和されるよう、当該親族等に対する適切な支援を行うために必要な施策を講ずる」とされている。

② 今般、島根県自殺対策総合計画の改定にあたり、「自殺」という言葉の使い方について本協議会において、種々の議論が行われた。

また、パブリックコメントでも多くの意見をいただいた。

③ 「自殺」という言葉については、亡くなられた方や遺族、未遂者などの尊厳を傷つけることがあるとの指摘がなされている。こうしたことから、近年、「自死」という言葉が多くの場面で使われるようになっているという指摘が相当程度あった。

④ 他方、「自死」という言葉については、「まだ十分認知されていない」「自死という言葉では、自殺をしてはならないという心理的な抑止効果を弱める」といった意見もみられる。

⑤ 本協議会での議論においては、遺族の方の心情にはできるだけ配慮すべきであるという意見が大勢であり、次の点については異論がなかった。

1)この計画の本文中は、法律の名称など一部の例外を除き、「自死」の表記を用いる。

また、この計画に基づいて、県が実施する事業や作成する資料等については、原則として「自死」を用いる。

2)なお、県行政における一般的な取扱としては、「自死」を基本としつつ、2つの言葉を状況に応じて使用する。

⑥ 計画の名称については、現時点では法律に基づいて作られる計画なので「自死(自殺)」と併記すべきという意見と、併記では遺族の方の心情に配慮したことにならないので、計画名称からも「(自殺)」を削除すべきという二つの意見があった。

⑦ そこで、改めて計画名称のみ全ての委員に意向確認したところ、「計画の表紙に法律との関連性を付記した上で自死対策計画」という意見を併せると、「島根県自死対策総合計画にすべき」という委員の方が多かった。

(2)島根県での取扱

県としては、上記の協議会でのとりまとめを尊重することとし、次のとおり取り扱うこととしました。

①計画での取扱

1)計画の名称は、「島根県自死対策総合計画」とする(計画の表紙に、「この計画は自殺対策基本法に基づく島根県の計画です」という注意書きを添える。)。

2)計画本文中は、法律の名称等一部の例外を除き、「自死」を用いる。

(注)この計画において例外的に「自殺」という語を用いるケース

・法律、大綱の名称等

自殺対策基本法、自殺総合対策大綱、世界自殺予防デー、自殺予防週間、

自殺対策強化月間

・統計用語

自殺死亡率、人口10万人当たりの自殺者数

3)本計画に基づいて、県が実施する事業や作成する資料等については、原則として「自死」を用いる。
 
②県行政における一般的な取扱

県行政における一般的な取扱としては、「自死」を基本としつつ、2つの言葉を状況に応じて使用する。

 
(3)今後の「自死」用語の啓発について

現代社会はストレスの多い社会であり、誰もが心の健康を損なう可能性があります。従って、県民一人ひとりが人生の様々な場面で自死に追い込まれるという危機に遭遇する可能性があることを認識し、自らや周りの人の心の不調に気づき、見守り、支え合いを意識することが重要です。
 
このため、島根県では、今後「自殺」を「自死」に置き換えるにあたっては、遺族等の悲嘆を回避することに止まらず、自ら命を絶つ行為が決して他人事や一個人の問題ではなく、身近な社会的問題であり、予防のポイントとされる「気づき、見守り、支え合い」に繋げる言葉として「自死」を積極的に啓発していきたいと考えています。

 
3.島根県自死対策総合計画の概要について

平成25年3月末に改定した新しい計画の概要は次のとおりです。

 
(1)計画期間及び数値目標

①計画期間

平成25年度から29年度までの5カ年計画です。

 
②数値目標

平成28年までに、平成19~23年の5年間の平均自殺死亡率(人口10万人当たりの自殺者数)を20%以上減少させることを目標とします。

[目標数値設定の考え方]
自殺死亡率を4年間で全国平均値以下まで減らすという考え方で目標数値を設定しました。

県の自殺死亡率 29.0(H19~23年の5年平均値)
 
全国の自殺死亡率 23.8(H19~23年の5年平均値) 約20%の減少

(2)島根県の自死をめぐる現状

①自死者数の推移
 
島根県の自死者数は、平成8年以降、毎年200人を超える高い状態で推移していましたが、平成22年は184人に減少し、15年ぶりに200人を下回りました。男性の自死者数は女性の約3倍となっています。(図1)

島根県自死者数の推移

図1.自死者数の推移 資料:「人口動態統計」(厚生労働省)

 
②自殺死亡率の推移及び全国順位

人口10万人当たりの自殺者数を示す自殺死亡率は、常に全国順位の上位を推移しています。自死者数が200人を下回った平成22年には全国11位まで順位を回復しましたが、平成23年は26.3で全国6位でした。(表1)

 
自殺死亡率の推移と全国順位

表1.自殺死亡率の推移と全国順位

 
③年齢階級別の自殺死亡率の全国比較

平成19~23年の5年間を合計した年齢階級別の自殺死亡率を全国と比較すると、男性はほぼ全ての年齢階級で全国より高く、女性は15~19歳、55~74歳、85歳以上の年齢階級で高くなっています。さらに、15~19歳では男女ともに以前は全国と同じかそれ以下でしたが、全国の倍近い高い状況になっています。(図2,3)

年齢階級別自殺死亡率

図2.年齢階級別自殺死亡率(H19~23合計)(男性) 資料:「人口動態統計」(厚生労働省)

年齢階級別自殺死亡率

図3.年齢階級別自殺死亡率(H19~23合計)(女性) 資料:「人口動態統計」(厚生労働省)

 
④原因・動機別の自死の状況(平成19年~23年)

男性は「健康問題」が30%と最も多く、次いで「不詳」が24%、「経済・生活問題」が19%となっています。女性は、55%を「健康問題」が占め、次いで「不詳」が21%で、「経済・生活問題」や「勤務問題」は男性に比べ少なくなっています。
(図4,5)

自死原因の割合

図4.自死原因の割合(男性) 資料:警察統計 図5.自死原因の割合(女性)資料:警察統計

  
(3)平成25年度からの自死対策
 
①基本的な方向性


本県の自死の現状を踏まえ、今年度から特に次の基本的な方向性を踏まえて対策の強化を図ります。


1)自死や精神疾患に対する偏見をなくす取組を推進


一人で悩みを抱えてしまう背景となる「自死そのものや多重債務、うつ病等の関連事象は不名誉で恥ずかしいものである」という間違った社会通念からの脱却や、自死に追い込まれるという危機は「誰にでも起こり得る危機」であって、その場合には誰かに援助を求めることが大切であるということが社会全体の共通認識となるよう積極的に普及啓発を実施します。


2)対象となる集団ごとの実態を踏まえた対策の推進


若年層(30歳未満)=いじめ、就職問題など、中高年層(30~64歳)=労働問題など、高齢者層(65歳以上)=健康問題など、未遂者=再び自死を図る可能性が、未遂者以外の者に比べて高いなど、対象となる集団ごとに実態を踏まえた対策を推進します。


3)県民や自死対策の推進に関係する主な機関・団体の役割を明確化し、その連携と協働を推進


例えば、県民は自らや周りの人の心の不調に気づき、見守り・支え合いを行う役割を担うなど、県民や自死対策の推進に関係する機関・団体がそれぞれの役割を意識し、連携や協働により主体的に取り組みます。

 
②具体的な取組
 
具体的には、次の9本の柱により取組を推進します。
 
1)自死の実態を明らかにする

・自死に関する統計を整理・分析し、関係機関への情報提供を推進します。

 
2)県民一人ひとりの気づきと見守りを促す

・悩みを抱えている人の存在に気づき、声をかけ、話を聞くなど、見守りや支え合いを推進します。
 
・自死に追い込まれる危機は「誰にでも起こり得る危機」であり、その場合には誰かに援助を求めることが体制であることを、教育活動や広報啓発活動を通じて啓発を行います。
 
3)早期対応の中心的役割を果たす人材を養成する

・自死の危険を示すサインに気づき、適切な対応を行うことのできるゲートキーパーを育成します。
 
・教職員に対し、児童の心の変化、いじめの認知・対応、体罰防止、虐待等に関する研修を実施します。

 
4)心の健康づくりを進める

・自らがストレスに気づき、相談窓口を利用するために、ストレスチェックと相談窓口情報を掲載した啓発チラシを配布して、セルフケアの普及に取り組みます。
 
・社会における人と人とのつながりや支え合いを重視して、住民に身近な地域での健康づくりを推進します。

 
5)適切な精神科医療を受けられるようにする

・質の高いうつ病治療が提供されるよう、精神科医療機関と一般診療科のかかりつけ医のネットワーク体制を構築します。

 
6)社会的な取組で自死を防ぐ

・健康問題、経済問題、家庭問題、勤務問題など、各種相談に応じる相談窓口の整備・充実や連携の強化を図ります。
 
・いじめ問題に対して、学校・教育委員会と家庭・地域が連携して対応します。

 
7)未遂者の再度の自死を防ぐ

・精神科の治療を継続しながら地域での支援が行えるよう、精神科や関係機関による連携体制の充実を図ります。

 
8)遺された人への支援を充実する

・遺族の会が実施する相談・研修会等の活動を支援します。

 
9)民間団体との連携を強化する

・島根いのちの電話の電話相談事業等の活動を支援します。

 
4.おわりに

自死の背景には、健康問題、経済問題、家庭問題、勤務問題など、様々な要因が複雑に重なり合っており、即効性のある対策をとることは困難です。このため、中長期的視点に立ち、行政だけではなく、県民の皆さんや関係機関・団体の皆さんの協力により、幅広い対策に粘り強く取り組んでいくことが大切であると考えられます。

島根県では、計画の改定にあたり、医療、職域、地域、法律などの関係者のみなさんや県民のみなさんから様々なご意見をいただき、「誰も自死に追い込まれることのない社会」の実現を目指して幅広い対策を盛り込みました。今年度からこの新しい計画に基づいて、県民一人ひとりや関係機関・団体が一致団結して取り組んでいただけるよう、県が先頭に立って対策を推進して参りますので、県民の皆さんのご理解とご協力をお願いいたします。

・島根県精神保健福祉協会誌「しまねの精神保健福祉VOL.42」に掲載されたものを承諾を得て転載いたしました。